賽の河原で貝殻を積む

水産技術者として思うこと等々

土用の丑の日

今年の土用の丑の日は、7月27日だそうだ。

 

この日は日本人が半狂乱的に、ウナギを食べなければならない、食べなければ死んでしまう、ぐらいの勢いでウナギを食べる。

この土用の丑の日にウナギを食べるという風習?ができたのは、江戸時代の中期、夏にウナギが全く売れないと嘆いている鰻屋に、平賀源内が土用の丑の日にウナギを食べることで精が付く、夏バテ防止になる、と宣伝してみては、というのが始まり。

言わば、バレンタインデーにチョコを送るのと全く同じようなもので、夏にウナギを食べることに何かメリットがあるのか、といえば、ビタミンAを多く摂取できる、ということぐらいである。

そもそもウナギの旬は冬であり、夏のウナギは脂肪分が少なくて、美味しくない。

 

だが、一旦出来上がってしまったビジネスモデルを変えることはできない。

養鰻業者(ウナギの養殖業者)は、12月に海から川に遡上してくる10㎝に満たないシラスウナギ養殖場に池入れして、土用の丑の日までにウナギとして出荷できるサイズまで育て上げる、ということが何年も続いていた。

養殖場で育てるのだから、脂肪分が高いウナギを出荷することになる。

ウナギの旬の時期を度外視して、無理くり土用の丑にウナギを育て上げ、売るのが、養殖業者の腕の見せ所となった。

 

しかし、肝心のシラスウナギが、昨年から今年にかけて不漁である。

この不漁状態は、もう数年以上続いている。

12月に池入れできるシラスウナギは、ほんの僅かである。

従って、昨年度の12月以降に池入れしたウナギを大きく育てて出荷するのが、今のスタイルになっている。

 

シラスウナギは、1㎏あたり100万~200万円が相場である。

これぐらい希少価値が高くなると、当然反社会的組織が関わってくる。

取り締まりを行うといっても、地元の警察は密漁自体が刑罰になることすら知らない、下手をすれば、警官がシラスウナギを密漁していた事例もあった。

 

シラスウナギが不漁になった原因は、①黒潮が大蛇行しているからシラスウナギが目的の川に遡上できない、②川に河口堰ができたから親ウナギが産卵場である海に行くことができない、と理由を探せば幾らでも出てくる。

しかし、根本的な原因は、ウナギという水産資源を国や地方自治体が管理してこなかったことである。

何故ならば、シラスウナギは、毎年川に遡上してくるのが当たり前の出来事だったからである。当たり前の出来事が当たり前でなくなることを予測できなかった官公庁の研究機関の罪は大きい。

 

独立行政法人の水産研究機構がようやくウナギの完全養殖を成功させたが、ウナギの受精卵からシラスウナギまで育てるコストが非常にかかる。

逆にコストが安くなると、シラスウナギ漁を生業としている漁師は困る。

また、反社会的組織が闇で売買しているシラスウナギの価値も当然下がってしまう。

従って、国がコストの安いシラスウナギを作ろうものなら、たちまち反社会的組織は手を変え品を変え、圧力をかけてくる。

国と反社会的組織のずぶずぶの関係も、ウナギの研究が一向に進まない阻害要因となっている。

 

いっそ、土用の丑の日にウナギを食べる風習自体を止めてしまえば良い、というのが私の意見である。

ウナギを食べなくても、現在は他の食べ物で幾らでも夏バテ対策は可能である。

むしろ、ウナギの脂肪に含まれる動物性ビタミンAの過剰摂取は、頭痛、筋肉痛、脱毛、皮膚の表面がはがれるといった過剰症を引き起こす。

 

と書いても、多分今年も7月27日はウナギの話題で持ち切りとなり、ウナギの資源管理が遠のくのだろう、と半分諦めの境地である。