賽の河原で貝殻を積む

水産技術者として思うこと等々

真昼のイカの夢

以前、千葉県の勝浦にて仕事をしていた時、何気なく漁師さんと話をしていたら、びっくりすることを聞いた。

御宿町から鴨川市の漁師(沿岸小型漁船漁業協同組合と言う組合に所属している)は、昼間にイカ釣り漁を行っているという話だった。

当時、勝浦地域で別の研究・普及をしていたが、興味本位でイカ釣り漁船を見に行き、仕掛けを確認して、確かにイカ釣りを行っていることが分かった。

 

私は、イカ釣り漁業と言えば、夜間に行うことが当たり前だと思っていた。

専門書にも、夜間に漁船から巨大なライトを照らして、光に寄ってきたイカを一網打尽に漁獲する漁法が掲載されている。


イカの集光性について、論文で確かめたら、確かに正の集光性が見られる、と昔の論文にも書かれている(つまり、光に集まると言うこと)。


当時、イカ漁で用いるライトは、火傷を負うぐらいの熱を発生し、また、ライトの交換費用もバカにならないため、LEDに変えると言う話もあった(実際切り替えているかも知れないが)。


勝浦の漁師さんに、イカ漁は夜に行うものだとばかり思っていた、と話したら、返事はこうだった。

「夜、光に集まるって言う話は知ってるよ。だから、昼に操業すれば、太陽の光に寄ってくるんじゃないかと思っただよ。」


あ、当たり前過ぎる答えだった・・・。

目から鱗とは、このことなのだろう(イカに鱗はないが)。

実際に、遊漁船でイカ釣りをするのも、朝から昼である。

一応、水産の専門家である私は、こんな単純な理由を思いつかなかったとは。


わざわざ夜間にイカ釣り漁船を出さなくても、昼間に操業すれば、コストも低く抑えられる。

早速、当時寄稿していた雑誌に、このことを記事にして投稿した。


しかし、雑誌の編集をしていた専門家から、掲載にマッタがかかった。

魚の分類について、魚類図鑑等の監修を行っている某専門家からのクレームだった。


その人曰わく、イカを昼間に漁獲するなんて話は、聞いた事がない、というのが理由であった。

こんな理屈で屈する私ではない。


遊漁船業でのイカ釣りの実態、勝浦地域でのイカ釣り漁業の操業風景の写真、イカの漁獲量や漁獲高などを提出して、事実を証明した。


だが、その専門家は事実を認めず、私の記事はボツになった。

所詮、地方の水産技術者の書いた記事は、某専門家にとって、デマだと思ったのだろう。


昔から信じ込まれている技術を否定し、別の技術を紹介すると、たちまち権威を振りかざし、非難を浴びせてくるのが、水産業界ではまかり通っている。


業界内で掲載される論文は、水産技術者内で当たり前に信じられている内容をアップデートするに過ぎないのが通例となっている。


若い研究者が発表した斬新な内容は、古い水産学者が叩き潰してくる。

当然、こんな業界に在籍したくないと思うだろう。

若い研究者が大学に残ったとしても、後世になると、同じように新しい研究者を潰すであろう。

いっそのこと、研究者がパワハラアカハラを行った場合、刑事罰が適用されるように法を設けた方が良いのではないか、と思う。


私が、水産分野で技術士を取得したのは、権威だけが頼りの大学へ金を払い、頭を下げ、大先生に論文を読んで頂き、博士号を頂戴するのが、馬鹿らしいからだ(院生の頃、バカ、辞めてしまえ!と言われたし)。


自分の能力と技術を、第三者が正当に評価して、国から水産分野の技術者だと認められる方が気分も良い。


昼間のイカ釣り漁業は、それが事実であっても、巷の水産技術者にとって夢物語に過ぎない。

そして、無駄にイカ釣り漁業は夜間に行うものとして、煌々とLEDライトが灯され続けるのである。